今や自分が欲しい情報は即座に、かつ低コストで入手できる時代ですが、玉石混交混じっているものです。データやエビデンスと呼ばれるものがあふれているからこそ、「ランダム化比較実験」の考え方が参考になります。
電気を点けたまま子どもを寝させると近視になるのか?
「相関関係」と「因果関係」は混同してはいけないといわれます。
例えば、アメリカの研究で、2歳以下の子どもに対して、①寝ているときに電気を点けているか、②その子どもが近視になっているか、というデータを集めました。
すると、寝ているときに電気をつけっぱなしにしている子どもほど、近視になっている比率が高いというデータが出ました。
それをもって、新聞やテレビで、「電気をつけっぱなしにして寝ると子どもが近視になる」と盛んに叫ばれるようになりました。
(実際の論文では、「この結果は電気をつけっぱなしで寝ていることと近視になることの相関関係を示しただけで因果関係を示したものではない」と書かれていたようなのですが)
これは、相関関係と因果関係を混同している典型例です。
「電気をつけたまま寝る」ことと「子どもが近視になる」ことは、関連性はあるかもしれないが、近視になる原因が電気のつけっぱなしかどうかはわかりません。
その後の研究で、①親が近視の家庭では寝るときに電気を点けていることが多く、②近視の親を持つ家庭ほど、子どもが遺伝的に近視になりやすい、ということだけでした。
ここを見誤ると、間違った対策をとってしまうかもしれません。
親としては、子どもの目が悪くなるのは避けたいところですが、だからといって夜に電気を消して寝ても近視にならないとは限りません。
相関関係と因果関係を混同してはいけないのは、情報があふれる中では重要なことです。
これを回避するために、学者の世界では因果関係を明確にするための「ランダム化比較実験」という実験方法がとられます。
因果関係を導くための「ランダム化比較実験」
例えば、飲むと痩せる薬があったとします。
「この薬を飲む」ことによって「痩せる」という結果になるのかどうかを測定するためには、「薬を飲む」以外の条件を全て同じにして比較する必要があります。
その結果、「薬を飲む」場合の体重が減れば、痩せ薬を飲むことと痩せることには因果関係があるといえます。
図にすると、以下のような感じです。
このように、「薬を飲む・飲まない」以外の条件を全て同じにして、その結果出た差のことを「介入効果」といいます。
この「介入効果」を測定することが、因果関係を測定することにつながります。
しかし、実際には「薬を飲む・飲まない」以外の条件を全て同じ条件にするということはできません。
一人の人間が「薬を飲む」という実験をしたら、その人に同じタイミング、同じ条件で「薬を飲まない」という実験をすることはできません。
薬を飲んだ結果を測定して、もう一度時間を巻き戻して今度は薬を飲まない場合の結果を測定する、ということをしないと「全く同じ条件」にはできませんが、タイムマシーンがないとそれは不可能です。
そこで、実際の科学の分野では、複数人の介入効果の平均を出すことで介入効果を測定するということをしています。
集団をランダムに2つのグループに分けて、「薬を飲むグループ」と「薬を飲まないグループ」に分けて、両者の介入効果の平均を測定します。
このように、ランダムにグループを分けてサンプル数を十分に確保して因果関係を測定する方法をランダム化比較試験といいます。
このランダム化比較試験で得られた結果は、相対的に強いエビデンスといわれます。
ランダム化比較試験の弱点
世の中に、「エビデンス」といわれるものはたくさんあります。
ワクチンを容認している人も否定している人も、それぞれが「エビデンス」をもってワクチンを肯定・あるいは否定します。
そうなると今度はその「エビデンス」が適切なのかを議論することになりますが、そこまでいくともはや素人の私たちができることではありません。
ランダム化比較試験も、エビデンスとしては強いものですが、一般の私たちがランダム化比較試験を行うことは莫大なコストがかかりますし、現実的にできません。
全ての意思決定を「ランダム化比較試験に基づいたものか」と検討することは現実的に不可能です。
私たち一般人ができることは、
- 相関関係があっても、因果関係があるとは限らない
- エビデンスにも強弱がある
- 誰かの体験談は、エビデンスとしては弱い
- 専門家の意見も、エビデンスが強いとは限らない
ということを踏まえておけばいいかと思います。
もちろん、私のような税理士業では法律などの一次情報にあたることは鉄則なので、可能な限り強いエビデンスを集めることも不可欠ではありますが。
▪️編集後記
昨日はベビー教室へ。娘の肌ケアや運動などについて先生に教えてもらいました。
自宅に戻って税理士業。
▪️娘日記
前回ベビー教室に行ったときは泣いてしまいましたが、今日は楽しそうにしていました。