「絶対押すなよ」をAIは理解できるか

言語学バーリ・トゥード」という書籍の中で、ダチョウ俱楽部の「絶対押すなよをAIは理解できるか」という事例を挙げていて、興味深かったです。AIの進歩は目覚ましいですが、人間にしかわからない感性を表す面白い事例だと思います。

目次

「絶対押すなよ」の意味と意図

ダチョウ俱楽部の上島竜平が熱湯の入った湯舟の上で「押すなよ」と言えば、それは「押せ」という意味であることは日本人なら誰もが知ってることでしょう。これは、「押せ」という言葉の「意味」と「意図」が異なる典型的な事例であると書籍ではいわれています。

AIでは、「押すなよ」という言葉の「意味」を読み取り、上島を押すことはないでしょうが、われわれ人間は「押すなよ」の「意図」が「押せ」であることを読み取り、上島を熱湯風呂に突き落とします。

この「意図」はAIではすぐに理解できないでしょう。

AIには(良くも悪くも)常識がないからです。

曖昧な文から相手の意図を推測するとき、私たちが使うのは常識だったり、その場面や相手や文化に関する知識だったり、それまでの文脈だったりする。そういった、広い意味での「取り決め」を話し手と聞き手の間で共有していなければ、意図の伝達は成り立たない。(P.23)

AIが人間の仕事を奪うのではないかと言われていますが、仕事の多くがコミュニケーションで成り立っている以上、そのコミュニケーションで相手の「意図」を理解できなければ、AIが人間の仕事を全て奪うということは考えにくいでしょう。

「意図」を伝えることは難しい

とはいえ、人間同士であれば正確に自分が伝えたい意図を相手に伝えられているかというと、そうとはいえないでしょう。

仕事でミスをしたり、何か事故が起こる要因は、多くはメンバー間のコミュニケーション不良によって起こるものです。

口頭だと勘違いが起こるからといってメールとかチャットで文章に残しても、文章が下手だったり誤読したりすると、正確な意図が伝わらないこともあります。

聞き手に正確に意図を伝えるということは難しいです。

発信する場合も同じです。

ブログは主に文章によるコミュニケーションですが、文章だけでわかりやすく読み手に伝わる文章を書くのは難しいです。

仕事で使うようなビジネス文書の場合、その組織内での専門用語や前提知識が共有された状態なので、ある程度文章がつたなくても、それなりに相手には伝わります。

しかし、不特定多数のWeb上で公開しているブログの場合、特定の組織内で通じる専門用語はなく、前提知識の理解も人によって異なります。そういった前提の中で、読み手に意図が伝わる文章を書くというのは、ビジネス文書を書くのとは違う難しさがあります。

「結論」よりも、「文脈」や「ストーリー」こそが人間らしさである

冒頭の熱湯コマーシャルの事例のように、人間であれば当たり前に理解できることがAIでは理解できないこともあります。また人間同士であっても、前提知識や話し手と聞き手との間にある共通理解がない状態でのコミュニケーションは難しくなります。

何かを理解するということは、「答え」や「結論」を知ることではなく、その背後にある「文脈」や「ストーリー」が重要なのではないかと思います。

そしてそれが、AIにはない人間らしさでもあります。

生まれてきてから現在までの生活の中で経験してきたことから常識を知り、その常識があるからこそ人間同士だと容易に意図を理解できることがあります。

AIでそういった常識をすべて学習させるということもできるかもしれませんが、かなり複雑なインプットが必要でしょう。

(熱湯の上で絶対押すなよという場合は押してもいいという学習はできるでしょうが、熱湯じゃなくて冷水だったら押さなくていいのか、上島以外の芸人だったらどうなのかといったことまで学習させるのは膨大な時間がかかるでしょう)

逆に言うと、文脈やストーリーを交えたコミュニケーションができないと、AIに取って代わられるという危険性もあります。

ブログでただ商品の概要だけを伝えているような文章や、知識だけを詰め込むような説明しかできないようだと、ChatGPTにやらせた方がいいということになるでしょう。

AIが進歩すればするほど、より私たちは人間らしさを養っていく必要があります。

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