会計ソフトはあまり使いやすいものではありません。会計ソフトは使いやすさよりも、「正確性」や「昔と変わらないこと」を重視しているように思います。何を大事にするかで、サービスの方向性は変わるものです。
会計ソフトが大事にしていることは「使いやすさ」より「正確性」
会計ソフトは一般的に、あまり使いやすいものではありません。
というより、独特の操作が必要です。
ショートカットは少ないですし、デザインやUIも私が新卒だった10年前からほとんど変わっていません。
多くのBtoBのサービスは10年も経てばデザインなりUIなり刷新されていくものですが、会計ソフトはクラウド化は進んだとはいえ、あまり大きな変化はありません。
なぜ変わらないかというと、変化する必要がないからですね。
会計ソフトは、使いやすさよりも、正確に集計してくれることに重点を置いているからではないかと思います。
日々の経理を会計ソフトに入力(仕訳)して、そこから決算書や試算表を出力するとき、集計が間違っていたらとんでもないことになります。
(上場準備をしている会社だと、使っている会計ソフトにも監査が入ります。それぐらい会計ソフトでは信頼性、正確性が求められているということです)
最近はインボイス制度や定額減税も始まり、例外処理も多くなっています。
これらの計算をソフト上で正確に行うことが最も重視されます。
ユーザーも経理スタッフや税理士がメインです。彼らにしてみれば、大幅にUIが変わって使いやすくなったといわれても、その操作に慣れることにストレスを感じる人も少なくないでしょう。古いままの方が良いという人もいます。
会計ソフトにおいて大事なのは、「使いやすさ」よりも、「正確性・ずっと同じ操作ができること」なのではないかと思います。「使いやすくすることができない」のではなく、そもそも「使いやすくする必要がない」あるいは「使いにくいと思ってない」からかもしれません。
この辺の認識の違いが、他のB to Bのサービスとは違うところかと思います。
ChatGPTは使いやすいけど、正確じゃない
一方で、ChatGPTのような生成AIは、誰でも簡単に利用することができます。
聞きたいことを何となくAIに聞けば、それなりに筋の良い回答が返ってきます。
ただ、普通に間違った回答をしてくることもあります。
税金の計算をAIにやってもらっても、全然日本の税制に合わない金額の計算をしてくることがあります。
会計ソフトとは、ある意味正反対の位置づけにあるともいえます。
生成AIで重要なのは、正確な情報を出すことよりも、短時間でたたき台となるような情報を出力できるようにすることではないかと思います(少なくとも現時点では)。
ChatGPTにブログの文章のたたき台を作ってもらって、最終的に人間が文章の校正や情報の信頼性を確認したうえで仕上げていく、みたいな使い方が生成AIの正しい使い方でしょう。
一方、会計ソフトで「たたき台」の試算表を出されても困ります。
試算表を出力したら、今の時点で入力されている経理データを網羅していて、銀行などに提出しても問題ない正確な情報を出力できるようにする必要があります。
「正確性」よりも「使いやすさ」を重視するのか、あるいは「使いやすさ」よりも「正確性」を重視するのかといった設計思想の違いが、サービスの方向性を決めていきます。
会計ソフトや生成AIに限らず、仕事をするうえで「何をお客様、ひいてはお客様に提供したいのか」という基本思想あるいは「何を大事にしたいか」は、サービスの方向性を決めるものでもあります。
何を大事にするかで、サービスの方向性は変わる
私の場合、税理士ではありますが、お客様が「税理士がいなくても経理・申告ができること」を目指しています。
なので、税務申告の代行をするサービス(税務顧問)の他に、単発で申告書作成のアドバイスやレクチャーをするサービス(単発税務相談、セミナー)、ブログなどの無料メディアでの発信を行っています。
これがもし私の事務所の方針が、「面倒な経理や申告は税理士に丸投げして、社長は営業に集中して欲しい」ということでしたら、税理士としては顧問を中心に記帳代行をしながら税務申告の代行をするサービスが中心になるでしょう。
どちらが良い悪いではなく、違いがあるということです。
もっと掘り下げると、「何を大事にしたいのか」が違いになります。
「経理は面倒なもので、営業や人脈を広げることが大事」と考えるのか、「経理も営業と同じぐらい大事、他人任せにするものではない」と考えるのかの違いともいえます。
起業、あるいは独立している人は、自分で仕事を生み出す必要があります。
だからこそ、まずは「自分は何が大事だと思うのか、何をお客様に提供したいのか」を考える必要があります。
さもないと、ChatGPTのようなサービスを提供したいのに、会計ソフトのような「カッチリ」とした仕事をせざるを得ないことにもなりかねません(逆も然りです)。
▪️編集後記
昨日は税理士業。自分の事務所の融資の手続きやセミナー準備。Kindle執筆。
税理士の戸村涼子さんの生成AIセミナーを受講しました。生成AIは私は主に文章作成に使うことが多いのですが、他の利用場面もたくさん紹介していただき、参考になりました。