「ベイズ統計」という統計の分野があります。ざっくりいうと、「情報を追加されるごとに確率が変動していく」ということを数学的にモデル化したものです。「ベイズ推定」という理論をベースにしたものですが、この「ベイズ推定」という考え方は、統計に関係ない分野でも役立つ考え方です。
ベイズ推定とは
例えば、あなたがガン検診を受けるとします。その検診で、ガンの陽性反応が出てしまいました。
このとき、あなたが実際にガンになっている確率を、「ベイズ推定」の考え方で推定してみます。
まず、ガン検診を受ける前の、一般的な成人のガンになる確率を考えます。ネットで調べれば「成人がガンになる確率」という統計データは出てくるかもしれません。しかし、例えば私のような30代だと、同世代でガンになっている人は周りにはいません。
ここでは主観的に、大人がガンにかかる確率を0.1%とします(逆にいうと、ガンにならない確率は99.9%)。
これを長方形の図で表すと、以下のようになります。
このような、ガン検診を受ける前に、あなたがガンであると考えられる確率のことを「事前確率」といいます。
次に、もし不幸にもガンになっていて、それが検診でわかる確率を考えます。
コロナのときにも「偽陽性」、「偽陰性」という言葉が出てきましたが、検診を受けても100%の精度ではありません。ガンなのに検査では陰性(偽陰性)となることもありえます。
ここでは主観的に、あなたがガンであることが検診でわかる確率を95%、ガンであるにも関わらず検診で陰性となる(偽陰性)となる確率を5%とします。
次に、ガンじゃないのに、検診で陽性が出てしまう確率を考えます。
これはこれでショックですが、可能性はゼロではありません。
ここでは主観的に、ガンじゃないのに陽性(偽陽性)になる確率を2%とします(逆に、ガンじゃない場合に検査結果が陰性になる確率は98%)。
これらの確率をそれぞれ長方形の図に表すと、以下のように分類できます。
まとめると、ガンとガン検診の関係は、以下の4つにまとめられます。
- 健康で、検診でも陰性となる確率:97.902%
- 健康だが、検診で陽性(偽陽性)となる確率:1.998%
- ガンで、検診で陽性となる確率:0.095%
- ガンで、検診で陰性(偽陰性)となる確率:0.005%
今回の事例では、あなたはガン検診で陽性反応が出たという現実に直面しています。
そうすると、この4つの確率の中で、今回は全く考える必要のないものがあります。
それは、1の「健康・陰性」と、4の「ガン・陰性」の確率です。
なぜなら、すでにあなたはガン検診で陽性反応が出ているからです。
なので、上記の長方形から、陰性である場合の確率を消去します。
ガン検診で陽性となった以上、今考えられるのは以下の2つしかありません。
2.健康だが、検診で陽性(偽陽性)となる確率:1.998%
3.ガンで、検診で陽性となる確率:0.095%
この2つの確率の合計が100%になるように数字を割り返すと、以下のように確率が変化します。
- 健康だが、検診で陽性(偽陽性)となる確率:95.4%
- ガンで、検診で陽性となる確率:4.5%
結果として、あなたがガン検診を受けて陽性反応となった場合に、実際にガンである確率は、4.5%ということになります。
このように、最初はガンである確率が0.1%だったが、検診で陽性となったことでガンの確率が4.5%と「変化」していくプロセスのことを、「ベイズ推定」といいます。
直感的に、意外な結果になったかもしれません。検査で「陽性」となったら、ほぼ確実にガンなのではないかと思ってしまいますが、実はそこまで悲観的にならなくていいのかもしれません。
これは、もともとガンになる確率が0.1%と非常に低く見積もっていることから、仮に陽性となっても実際にガンである確率は低くなります。
逆に言えば、検診を受けなければ0.1%にすぎなかったものが、陽性となったことで4.5%と跳ね上がっているので、やはり検査結果は無視できないものでもあります。
経験を重ねることで、確率を増減させていく
陽性&ガンである確率が4.5%という数字自体は、厳密に統計を取って出した数字ではないので実際の確率はわかりません。
この事例で大事なのは、新しい情報がインプットされることで、確率がアップデートされていく、ということです。
検診を受ける前は、自分がガンである確率は0.1%しかなかったのに、検診で陽性が出たら、それが4.5%に急上昇しました。
これは、「検査結果」というインプットがあったことで、自分がガンである確率がアップデートされたということです。
ここでさらに精密検査を受けて、実際に腫瘍が見つかれば、さらにガンである確率は上昇するでしょう。ある一定の確率まで高まったら、ガンという正式な診断がされる可能性が高まります。
逆に、精密検査をしたら腫瘍が見つからなかったとか、腫瘍はあったけど良性だったということがわかれば、ガンである(ベイズ推定上の)確率は下がっていきます。
このように、いきなり真実にたどり着くことはできなくても、いくつかの試行錯誤から情報が更新され、少しずつ「真実らしいもの」ににじり寄っていくという、ミステリ小説の探偵のような思考法が、ベイズ的な思考法です。
ベイズ的に生きてみる
例えば、今の会社を辞めて独立したい、と思っていたとします。
でも、独立して成功する確率は、事前に見積るのは不可能です。
(そもそも何をもって「成功」と考えるのかが難しいところです)
ましてやずっとサラリーマンとして働いていたら、独立後の世界は「未知の世界」です。
なので、いきなり会社を辞めようとするのではなく、まずは独立している人(例えば私のような)に「生の声を聞く」ということをしてみるとします。
すると、独立後のリアルな事情を聞けるでしょう。
それによって独立後に気をつけるべきことがわかれば、「ベイズ推定」で独立がうまくいく確率を上げられるかもしれません。
話を聞いてみたら、次は副業として週末だけ別の仕事をやってみると、営業の難しさ、お金の管理の難しさ、税金の痛みを知ることができます。
それによって、さらに「ベイズ推定」をアップデートできます。
そして、ある程度「独立してもなんとかなりそう」というところまで「ベイズ推定」できたら、会社を辞めて独立してもうまくやっていける確率は高いです。
このように、最初から完璧な選択を目指すのではなく、少しずつ実践と振り返りを繰り返していくことで、自分の望む結果へと近づけていくことが「ベイズ的な生き方」ではないかと思います。
このトライ・アンド・エラーを繰り返していくには、時間も必要ですし体力・健康も必要でしょう。
常に複数の選択肢を持ち、そこから最適だと(その時点で)思われる選択をしていくスキルを磨くことが重要です。
▪️編集後記
昨日はバイク納車後初のサイクリング。家の周辺は坂道が多くて大変でした。
夜は地域の士業交流会へ。
▪️娘日記
発する言葉の種類が増えてきた気がします。
前は「アウー」とかだけでしたが、最近は「ウギー」とか「オウー」みたいなことも言うようになりました。